東京地方裁判所 昭和58年(特わ)1382号 判決 1983年9月12日
裁判所書記官
久保田堅蔵
本店所在地
東京都渋谷区渋谷一丁目一一番三号
アールエイト株式会社
(右代表者代表取締役高橋良吉)
本籍
東京都渋谷区代々木二丁目二六番
住居
東京都渋谷区代々木二丁目二六番五-八〇三号
会社役員
高橋良吉
昭和二四年一月七日生
右両名に対する法人税法違反各被告事件につき、当裁判所は検察官三谷紘出席の上審理を遂げ、次のとおり判決する。
主文
一、被告人アールエイト株式会社を罰金一六〇〇万円に、被告人高橋良吉を懲役一〇月にそれぞれ処する。
二、被告人高橋良吉に対しこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人アールエイト株式会社(以下「被告会社」という。)は、東京都渋谷区渋谷一丁目一一番三号(昭和五七年五月一五日以前は東京都渋谷区宇田川町二番一号)に本店を置き、電子部品の販売等を目的とする資本金五〇〇万円の株式会社(昭和五四年七月二六日設立)であり、被告人高橋良吉(以下「被告人」という。)は被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上、仕入、棚卸しの一部を除外し簿外預金にするなどの方法により所得を秘匿した上
第一 昭和五四年七月二六日から昭和五五年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が七〇一六万〇五七五円あった(別紙一の一修正損益計算書参照)にかかわらず、昭和五五年五月二八日、東京都渋谷区宇田川町一番三号所在の所轄渋谷税務署において同税務署長に対し、その所得金額が一四五一万四五九八円でこれに対する法人税額が五〇四万六八〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書(昭和五八年押第一一〇一号の一)を提出し、そのまま法定納期限を徒過し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額二七二八万八〇〇〇円と右申告税額との差額二二二四万一二〇〇円(別紙二税額計算書参照)を免れ、
第二 昭和五五年四月一日から昭和五六年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億一二八二万六八四〇円あった(別紙一の二修正損益計算書参照)にかかわらず、確定申告書提出期限の延長処分による申告書提出期限(法定納期限)である昭和五六年六月三〇日、前記渋谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二四七九万五三九八円でこれに対する法人税額が八六〇万五五〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書(昭和五八年押第一一〇一号の二)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額四三七七万三八〇〇円と右申告税額との差額三五一六万八三〇〇円(別紙二税額計算書参照)を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全般の事実につき
一、被告人の当公判廷における供述
一、被告人の検察官に対する供述調書八通
一、山下岩雄の検察官に対する供述調書一一通
一、一之瀬由明の検察官に対する供述調書
一、登記官鈴木智旦作成の登記簿謄本
一、押収してある法人税確定申告書二袋(昭和五八年押第一一〇一号の一、二)
判示別表各修正損益計算書の各当期増減金額、修正金額欄につき
一、大蔵事務官作成の調査書二一通
青色申告承認取消の事実につき
一、渋谷税務署長作成の証明書
(法令の適用)
被告会社及び被告人の判示第一の所為は行為時においては昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一五九条、一六四条一項に、裁判時においては右改正後の法人税法一五九条、一六四条一項に、判示第二の所為は法人税法一五九条、一六四条一項にそれぞれ該当するが、判示第一の罪は犯罪後の法律により刑の変更があった場合であるから刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、所定刑中被告人については懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから被告人の懲役刑については同法四七条本文、一〇条により判示第二の罪に法定の加重をした刑期範囲内で、被告会社の罰金刑については同法四八条二項により免れた税額を合算した金額の範囲内で主文第一項のとおりの刑に処し、被告人については刑法二五条一項を適用し主文第二項のとおりその刑の執行を猶予することとする。
(量刑の事情)
本件は集積回路(IC)などの電子部品の販売等を目的として資本金五〇〇万円で設立した被告会社の代表取締役である被告人が初年度の昭和五五年三月期については約一五〇〇万円、翌年度の昭和五六年三月期については約二五〇〇万円を目標にして経理担当者に指示し、売上、仕入、棚卸しの除外、売上、仕入の繰延べ等の経理操作により利益を圧縮して決算した上、これにもとづき判示のとおりの法人税の虚偽過少申告をなし、右二事業年度の法人税合計五七四〇万円余を免れ、簿外預金を蓄積していたものであって、その申告税額の正当税額に対する割合は一九・二パーセントに過ぎない。しかも被告人の本件法人税ほ脱の犯行は設立後日も浅く現金取引が中心の業界であることから被告会社の簿外資産として運営資金を蓄積し不時の出費に備え、また対外的信用を増すためであったというのであって、被告人の本件犯行は動機においても、ほ脱の手段・態様においても特段酌量すべき余地は認められない。
しかしながら、被告人は本件発覚後はすすんで捜査に協力しほ脱額については修正申告をなし、重加算税、延滞税を加えて全て納付ずみであり、地方税増加分、重加算金についても納付ずみであること、その後の事業年度の納税申告についても適正に行なわれていると認められること、被告人には他に何らの前科なく再犯のなきことを誓い反省していると認められること等被告人らに有利な情状も認められるところである。
そこで以上の事実のほか被告人の年令、経歴、家庭の状況等本件に顕れた一切の情状をも総合して斟酌し、主文のとおり量刑する次第である。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 池田真一)
別紙一の一 修正損益計算書
アールエイト株式会社
自 昭和54年7月26日
至 昭和55年3月31日
<省略>
<省略>
別紙一の二 修正損益計算書
アールエイト株式会社
自 昭和55年4月1日
至 昭和56年3月31日
<省略>
<省略>
別紙二 税額計算書
自 昭和54年7月26日
至 昭和55年3月31日
<省略>
自 昭和55年4月1日
至 昭和56年3月31日
<省略>